熊本地震が起きた直後から、SNSには大量の偽情報が流れました。
生成AIで作られた偽の被害動画、過去の災害映像の転用、実在しない住所からの救助要請。
総務省は地震当日、科学的な根拠のない話が広がるおそれがあるとして、公式Xで注意を呼びかけています。
地震から時間が経ち、情報が流れる勢いは落ち着いてきました。
ただ、復旧期に入った今は別の問題が起きています。
古い情報が、古いまま更新されずに残り続けるという問題です。
この記事では、災害時に個人が情報を発信したり広げたりするときの原則を整理します。
あわせて、生成AIを日常的に使うライター・ブロガーとして、AIが作った災害デマについて、私がどう考えているかを記します。
※本記事の情報は2026年8月14日時点のものです
1. 情報を発信・拡散するときの3つの原則
1-1. 原則1 —「いつの情報か」を必ず添える
復旧が進んだ地域の「断水中」等の情報が残り続けると、支援を届ける先の判断を誤らせます。
この情報は、書かれた時点では正確です、間違っていたわけではありません。
ただ、時間が経てば、正しかったものが誤りに変わります。
復旧期に入った現在、最も多い誤りはこの型です。
対処法は簡単です。発信するときも広げるときも「◯日◯時時点」と添えてください。
それだけで、この情報には寿命があると読み手に伝わります。
受け取る側にもできることがあります。
Xの「おすすめ」欄は反応の多い投稿を優先して表示するため、災害時には古い投稿が上のほうに出やすくなります。
X社日本法人の代表は、災害時の使い方として次の2点を呼びかけています。
- 「おすすめ」ではなく「フォロー中」のタイムラインを使う
- 投稿の表示順を「新しい順」に切り替える
1-2. 原則2 — 間接的な情報ではなく、一次情報にリンクする
まず言葉の整理です。
- 一次情報:当事者や公的機関が、自分で出した情報
- 二次情報:それを誰かがまとめ直したもの
「〜らしい」「知り合いから聞いた」という形で広がった情報は、経由した人が増えるほど、どこから出た話なのか確かめようがなくなります。
出発点は、次の公式発表を一次情報として取り扱ってください。
- 気象庁
- 熊本県、各市町村
- 熊本県社会福祉協議会
- 日本赤十字社
- 報道各社
リンクを貼るときも、まとめ記事ではなく公式発表そのものへ貼ります。
なお、この記事もまた二次情報です。
公式サイトへの橋渡しにすぎません。
1-3. 原則3 — 根拠のない情報を拡散しない
危険を知らせたい。真相を知りたい。その気持ち自体を否定する理由はありません。
総務省のウェブサイトでも、発災直後の興奮状態のなかで「何か自分にできることはないか」と考え、良かれと思って拡散してしまうケースがあると分析しています。
普段SNSを使い慣れていない人が、不安から情報を集めようとして触れる。
そのなかで、発信源ではなくても伝達者になってしまう。そういう構造だといいます。
ただ、確認されていないことを言い切った投稿は、読む人から判断する余地を奪います。
今回、実際に広がったものを3つ挙げます。
地震を事前に予測して的中させたとする投稿
読売新聞オンラインの取材によれば、7月28日21時15分の時点で340万回以上閲覧されました。
NHKによれば、この投稿主は根拠のない地震の予測を毎日のように出しているアカウントだといいます。
「人工地震」という説
日本地震学会は、地震の4か月前にあたる2026年3月公開のFAQで、この種の主張を否定しています。深さ10km以上の穴を秘密裏に掘るのは難しく、そもそもそれだけのエネルギーを人為的に起こすのは現実的ではない、という説明です。
新しい出来事への反応ではありません。
すでに否定されている話の使い回しです。
「ななつ星」が脱線したという投稿
「JR九州の豪華寝台列車『ななつ星』が脱線した」という情報が広く拡散されました。
JR九州はNHKの取材に対し、そうした情報は入っていないと否定しました。
産経新聞は、八代駅付近で起きた貨物列車の事案と取り違えたとみられると報じています。
このほか、特定の属性の人々を名指しして責める投稿も確認されています。
3つ目は、悪意のない取り違えだった可能性があります。
ただ、悪意がなくても、確認しないまま言い切れば結果は変わりません。
1-4. 原則を守っても見落としがちなこと —「いいね」と引用リポスト
Xは、反応が多い投稿ほど多くの人に表示される仕組みです。
「いいね」も、その反応のひとつとして数えられます。
見落としやすいのが、誤りを指摘するための引用リポストです。
これも、元の投稿を多くの人の目に触れやすくする側に働きます。
訂正したいという動機は分かります。
ただ、その行為が偽情報の届く範囲を広げるのであれば、目的と手段が逆を向いています。
実際、コミュニティノートが付いた後も拡散が続く投稿を確認した例があります。
打ち消したいときの選択肢は2つです。
- 引用せず、一次情報だけを示す
- 何もしない
2. 今回、実際に流通した悪質な偽情報
2-1. 生成AIによる偽動画
イオンモール熊本では、実際に爆発事故が起きています。
経済産業省は8月5日、LPガスによる爆発の可能性が高いと発表しました。
警察・消防との現地調査で、3者の認識が一致したものです。
ただし、次の点は現在も調査が続いています。
- ガスがどこから漏れたのか
- 何が着火の原因になったのか
この現実の出来事の上に、偽の映像が重ねられました。
SNSに投稿されたのは、次の2本です。
- 自撮りする女性の背後で、爆発が起きる映像
- 建物が倒壊し、「Pray for Japan」と添えられた映像
国立情報学研究所の専門家は、取材に対し、いずれも明らかにAIで作られたものと考えていいと述べています。
根拠として挙げたのは3点です。
- カメラが振れて戻ったときに、路面が変わっている
- 人が後ろ向きに歩く動きが、不自然である
- 映り込んだ消防車の色が、実物と違う
YouTubeにも、報道機関のニュース番組を装った偽動画が投稿されました。
NHKの取材によれば、数万回再生されています。
ここで注意したいのは、「そんな事故は起きていない」という常識的な判断が、今回は働かなかったという点です。
爆発は実際に起きていました。だからこそ、偽の映像に疑いを持ちにくかったのです。
2-2. 過去の映像を使う・人の善意につけこむ
生成AIを使用する事例以外にも、いくつかの手口がありました。
過去の映像の転用
- 地震発生時の映像として投稿されたものに、季節に合わないコートを着た人々が映っていた。
過去の冬の震災映像の転用とみられます。 - イオンモール熊本の動画としてXに投稿された映像には、2024年の能登半島地震のときに富山県の商業施設で撮影されたものが含まれていました。
偽の救助要請
実在しない住所を記した救助要請の投稿が広がりました。
NHKによれば30万回以上閲覧され、投稿したアカウントはその後、閲覧できない状態になっています。
送金を求める投稿
偽情報は、そのまま詐欺にもつながりました。
被災者を装って送金を求める投稿が確認されています。
ある投稿は、勤務先とされた店舗からの指摘を受けて、投稿者本人が虚偽だったと認めました。
アカウントはその後、削除されています。
手口の中身と、それを避ける方法は前記事で扱いました。
ここで確認しておきたいのは、偽情報を作る動機と、詐欺の動機が地続きだという点です。
人の関心を集めたいという動機と、人からお金を取りたいという動機は、同じ場所から出ています。
【関連】寄付・ボランティア・物資の具体的な判断基準は別記事にまとめています

3. 生成AIを使う書き手として、今回感じたこと
私は文章を書くとき、生成AIを日常的に使っています。
今回広まった偽動画を作った道具と、根は同じところにあります。
だから、あの画像を見たときに思ったことは、たぶん多くの方とは違いました。
熊本地震で自宅が全壊した男性の写真が、AIで加工されてSNSに広まりました。
倒壊した自宅の前で、男性がピースサインをしているように見える画像です。
元になったのは、新聞社が取材で撮った本物の写真でした。
男性のもとには誹謗中傷が寄せられ、自宅を撮影しに来る県外の車まで現れたといいます。
※以下は報道機関による検証報道の引用であり、当ブログが生成・加工した画像ではありません。
私が最初に思ったのは、「AIを使えば、これは数分でできる」ということでした。
ひどいことをする人がいる、とは思いました。
ただ、それより先に、作業の手軽さのほうが浮かんだのです。
写真が1枚と、短い指示文があれば足ります。特別な技術は要りません。
そして、その手軽さの恩恵を、私も受けています。
原稿が早く仕上がることと、あの画像が数分でできてしまうことは、同じ性質の便利さです。
以前なら、悪意を形にするにも手間がかかりました。
手間がかかるうちは、途中で我に返る余地もあったはずです。その余地が、なくなりつつあります。
便利さだけを受け取って、裏側は他人事。そういう立場は取ってはいけないと思っています。
念のために書いておくと、この記事はAIに全てを任せて書いたものではありません。
調べるのも、組み立てるのも、最後に直すのも私です。その途中で、AIの助けを借りています。
そのうえで正直に言えば、確認や手間を省きたくなる瞬間はあります。
締切が迫っているとき。AIが出してきた一文が、ちょうどよく決まっているとき。
この数字は合っているだろう、この日付はたぶん正しい。そう思ったことは何度もあります。
ですから、今回自分に課していることを書いておきます。
- AIが出した固有名詞・数値・日付は、必ず元の資料で確認する
- まとめ記事ではなく、公式発表そのものにあたる
- 確認が取れないものは書かない。文章が弱くなっても書かない
- この記事の画像に、生成AIは使わない(アイキャッチ画像を除く)
最後の一つは、いま実行しています。
AIが作った偽情報について書く記事に、AIが作った画像を貼るわけにはいかないと考えました。
こうして書き出しているのは、自分が大した人間だからではありません。
むしろ逆です。書いておかないと、すぐに忘れてしまうからです。
道具は、書く人と加工する人を区別しません。区別しているのは、使う人間のほうなのです。
4. まとめ — 拡散しないという一つの決断
4-1. 個人で真偽を判別するのは不可能に近い
ここまで、いくつかの偽画像・動画の見分け方に触れてきました。
路面の変化、歩き方の不自然さ、消防車の色。
説明されてみると、自分でも確かめられそうな気がしてきます。
ですが、あれは専門家が専門的な視点から見つけたものです。
一般の読み手が同じ精度で見分けられることを、前提にしてはいけません。
実際、防災サービスを手がけるスペクティ社によれば、今回の地震では次のような動きが特徴的だったといいます。
生成AIの回答を根拠に、本物の可能性が高い現場の映像を「過去のものだ」と断定して広める。
確かめようとした行為が、新しい偽情報になりました。
ですから、結論は「見分ける」ではありません。
判定を保留し、公式発表を待つ。
地味ですが、それ以外に確実な方法はありません。
4-2. 誰かが代わりに止めてくれるわけではない
では、行政やSNSの運営会社が消してくれるのを待てばよいのでしょうか。
実はそうもいきません。
投稿が消えても、広まった情報は消えません。
今回も、偽の救助要請を出したアカウントはその後、閲覧できない状態になりました。
ですが、その投稿はすでに30万回以上見られたあとでした。見た人の記憶までは消せません。
コミュニティノートのような仕組みもあります。
誤りを指摘する注釈を、投稿に付ける機能です。
ただ、注釈が付いた後も拡散が続いた投稿が確認されています。
一方で、度が過ぎれば罪に問われます。
過去2度の震災では、偽情報を投稿した人が逮捕されました。
つまり、こういう状態です。
- 消したり直したりする仕組みは、広まる速さに追いつかない
- 悪質なものには、刑事罰がある
- その間に情報が広がってしまう部分は、一人ひとりの判断に委ねられている
この「情報が広がってしまう部分」が、いちばん大きな問題です。
4-3. 残るのは、拡散しないという決断
自分では判定できない。行政も追いつかない。
残るのは、広げないという判断だけです。
止めることは、何もしていないように見えます。
投稿すれば何かをした気持ちになりますが、黙っていても手応えはありません。
ですが実際には、情報の環境をよくする側に働いています。
あなたのところで止まった情報は、その先の誰にも届きません。
判断に迷ったときの基準は、ひとつでよいと思います。
その拡散は、現地の誰かの手間を増やしていないか。
寄付の相手を確かめること。ボランティアの受付状況を確かめること。情報の出どころを確かめること。
どれも同じ形をしています。自分の気持ちより、相手の都合を先に置くという形です。
確かめてから広げる。確かめられないなら、広げない。
それだけで、現地の誰かの手間が一つ減ることになるのです。
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